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根付が「掌の中の小宇宙」と言われる理由をご存じでしょうか?

「掌の中の小宇宙」これは根付(ねつけ)の事を語る際につけられた表現です。
根付と聞いて頭に浮かぶのはカバンや携帯につけるストラップの事ですが、本来の根付とは、おそらくみなさんがイメージしている根付とはまったくの別物です。
今回は、本来の根付が生まれたきっかけと現代のストラップ(根付)へ変化していく様子を考えてみたいと思います。

根付(ねつけ)の起源

根付は江戸時代に生まれた日本独自の伝統美術です。
江戸時代、着物を着る際に印籠や巾着、煙草入れなどを留める道具としてファッションの一つとしても発展し、色々な形に変化していきます。
みなさんが一番ご存じなのは水戸黄門の印籠ではないでしょうか?
その印籠を着物に携帯する際必要だったのが根付です。根付は印籠と紐でつながっており帯の下から根付をくぐらせて帯の上で留め、印籠をぶら下げるためのいわばストッパーの役目でした。
印籠に豪華な蒔絵があるように、根付も技術を競い合い美術品へと変貌していきます。
これが根付が生まれた簡単なな歴史です。

細密彫刻が作り出す掌の中の小宇宙とは

根付は細密彫刻といわれ、サイズは掌の中に納まる3㎝から4㎝です。
職人が競い合って技術を磨いてきた歴史があり細密彫刻の具合は職人によって違います。拡大ルーペで何倍にしても大きな品と同様に彫れており、ささくれなどがなく滑らかに仕上げてあるものが多いです。
その中にはまさに超絶技巧!!とよばれるような、どうやって彫ったかがわからない「からくり」や「透かし彫り」の根付などもあります。
また、360度どの角度から見ても美しく、置物のように上下がなくデザインも無限の可能性を秘めています。
そのような事から「掌の中に握った時、まるでそこに小さな宇宙あるようだ」との表現をされたのだと思います。
動物の毛彫などは肉眼では見えないほどに、1ミリの中に何本もの毛の模様が彫られています。

根付(ねつけ)の彫刻の仕方

現代ではルーターといわれる電動機を使い作られる作品がほとんどですが、当時は彫刻刀と簡単なルーペのようなもののみで創り上げており、技術がいかに高かったかがわかります。
私自身も彫刻を本業としており根付を作りますが、ルーターは使用しません。あくまでも先人たちへのリスペクトと自分への挑戦の意味で彫刻刀の技術を使います。
ルーター彫刻は材料が木であれば逆目が関係なく彫刻刀の技術とは相反します。どちらが難しいなどというような話はする必要がなく、各職人へのリスペクトのためここで技術要素についての比較はあえてしない事とします。

根付(ねつけ)の種類

根付にはたくさんの種類があります。以下に一部抜粋します。

  • 形彫根付(通常の根付)
  • 面根付
  • 饅頭根付
  • 鏡蓋根付
  • 差し根付

根付の材料も、木・象牙・珊瑚・翡翠・琥珀・鯨の刃・イッカク等、たくさんあります。

根付(ねつけ)の醍醐味

根付はただ小さく細密彫刻というだけではありません。デザインが命ともいわれます。
業界では「ひねり」といわれるもので、置物と違360度全てに彫刻がされ、いかに角のないデザインにたたむかが職人としての感性と技術が問われます。
例)長い馬の脚を折りたたむようにしたり実際はありえないようなねじり方をしたりします。
さらに根付にとって難しいといわれる点は、紐通しが必要な事です。紐を通した際にデザインが壊れないようにしなければならず、単純に動物であれば背中に穴をあければよいわけではないのです。

現代の根付(ねつけ)

現代の根付は気軽に使えるストラップが主流となり使い方も変化しました。
印籠を留めるのではなく、印篭が必要ない時代では根付をぶら下げるという使い方です。これはまったく違う使い方で、ぶら下げる場合は紐通しの穴は上にありますが、本来の根付の穴は下(底面)にあります。
これは印籠が下で帯で根付を留めるため、根付が上を向くためには下に穴がなければならないからです。本物の根付を今ぶら下げて使った場合は根付は逆さまになってしまいます。
現代の根付はストラップのことを指し、本来の根付は印籠につける美術品と考えるのがわかりやすいかもしれません。

まとめ

本来の根付はとても技術が必要で簡単にはできません。そのためかなり高額になり、美術品の一つとして扱われています。
現代根付の相場は30万~100万です。
余談ですが、過去の古根付のオークション最高額はなんと3,900万円!!
ストラップではなく本根付とよばれる根付は、知れば知るほど奥が深くとても楽しめる作品です。
みなさんも本物の根付を見る機会があればデザインを含め、是非楽しんでみてはいかがでしょうか?

# アート・芸術

2020-08-19